ここでこの本の内容を解説紹介するつもりはない(どれだけ理解できたかもよくわかっていない僕には無理である)。ブローデルの解説書はいろいろあるので、そっちの方が役に立つだろう。しかし、おいらなりの下世話な表現で「資本主義」というもののブローデル的解釈を整理すると以下のようなものだ:
- 資本主義とは、巷に言われるように、19世紀にあって急に出現したものではない。中世のイタリアでは華麗な資本主義が花開いていたし、更にもっと古くまで遡ることが出来る。資本主義は、時代時代の状況(重合的循環)に応じて其の形を変え、活動分野の変化させながらどんどん成長してきたものだ(長期的持続)。
- 資本主義と市場主義とは異なる概念である。資本主義はむしろ反市場的で、独占を好み、国家権力と結びつき、地道な経済活動よりは利益率が高い投機的取引を好む。資本主義はむしろ曖昧な定義であるところの『重商主義』に似ている。資本主義は経済社会の上層部による活動であり、市場主義が支配する通常の市場取引はまじめで専門性の高い中層階級がその活動を担う。さらにその下には資本主義とは全く無縁な膨大な数の下層大衆が存在する。資本主義は自分が属する社会内部ではもちろん、しかし主に周辺地域から可能な限り搾取する。国内取引が規制されがちであるのに較べ、遠隔地との取引は遙かに自由度が高いので(すなわち利益率が高く大きな搾取が出来るので)原始資本の蓄積はもっぱらここから搾取して築く(植民地香辛料貿易、奴隷貿易など)。
- 資本主義は長年に渡る私有財産の継承(世襲)を前提とする。最高権力者が資産保有者を胡散臭い存在と敵視しことあれば私有財産を没収したり、公平に選抜された高級役人による蓄財も「一代限り」であった中国(科挙制度)やトルコ(封土制)の大帝国などでは、資本の存在にも拘わらず資本主義は発展しなかった。
- 資本主義には都市が決定的な条件となる。農村周辺部には資本主義は生まれない。世界=経済(経済圏)の中心はあくまでも都市。それも一極に集中する。中心都市は一つしか存続できない。都市間競争に敗れると世界=経済(経済圏)の中心地はそこから離れる。都市の周辺部および世界=経済(経済圏)の周辺部は必然的に窮乏する。ただしその都市が世界制覇に成功する場合、その特定都市が属する地域(国家)は、更に外側の周辺国家を搾取することで、国民全体が覇権的資本主義の恩恵を被り豊かになる。資本主義世界では自国の資本主義が強くなければ国民は貧しくなる。
- こういう(不道徳な)資本主義は生き延びられるのか。将来とも、多少変化することはあり得ても、基本的に生き残る。資本主義とは経済的活動と言うよりは、社会の階層に根ざした社会的な現象であるからだ。
まあこういうことか。たいへんな大部であり、6冊全部を読むに当たってはブローデル自身の自本解説講演録(これは日本語でも文庫本で出版されている。『歴史入門 (中公文庫)』と言う陳腐なタイトルで)を読んでからの方がいいかも知れない。
この本からはいろいろの教訓と政策示唆を引き出すことが出来る。EU形成なんかもブローデルに影響されたのではないか。EUという世界=経済の中心地にうまく潜り込んでしまったフランスなどは、国民はバカンスで遊んでばかりで働いているようには見えないけれど、周辺外縁諸国から搾取することで、豊かな生活を享受している。中国もフランス帰りの鄧小平の改革開放路線以来、資本主義の国家育成に向けてまっしぐらだ。日本も(ちなみにブローデルは世界で資本主義が内因的に生まれたのは西欧諸国と日本だけだと日本を高く評価しているが)考えないといけないな。米国の世界覇権体制にうまく潜り込むことが賢いやり方なのだが、もたもたしているうちにタイミングを逸した感じがある。国内的にも資本主義の「角を矯めすぎて牛を殺してしまった」感もある。
おまけ:読みながら twitter で抜き書きをしてみた。後半部分だけだがブローデル関係のおいらの抜き書きカードは以下の通り:
twilog "kafusanjin" 『ブローデルの検索結果』
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